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アニメ、テレビなどの感想や語り中心。現在更新停滞気味ですすみません。
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   卒業式も近づいてきた三月のある日。掃除当番のオレが最後に教室を閉め、鍵を職員室に返しに行こうとした時だった。
 「あれって…」
 6-3の教室に、やたら見慣れた人影が座っていた。机に向かって何やら書いているらしい。向こうは気付いていないようだし、声なんかかけなきゃいいのに…と思いつつも、オレはいつの間にかそいつを呼んでいた。
 「おい、何やってんだ?」
 「あ、りょおちゃん!」
 今まで机に向けられていた視線がこっちに切り替わり、意味なく少し腹が立つほどの明るい声でそいつは答えた。
 「…あのな、卒業までその呼び方で通すつもりか?」
 「だって前、勝手にしろって言ったから」
 そう言いながら、笑顔を返してくる。オレには何でこのタイミングで笑えるのかが全く理解できない。…いや、おそらく、こいつのことは一生理解できないんだと思う。
 「……もういい。で、何書いてんだ?」
 長々と付き合ってもこっちが疲れるだけなのは経験上分かっていたから、さっさとあきらめて話題を変え、気になっていた机の上の紙を見た。…ん?
 「えへへー、よく描けてるでしょ。 りょおちゃんとわたしだよ」
 そこには、かろうじて人だと分かる絵…というより図らしきものが色鉛筆で描かれていた。しかもご丁寧に二人の間には…
 「待て! 何だこれは!?」
 「ハートだよ。わたしとりょおちゃんの愛の証…」
 「誰と!? 誰が!? 愛だって!?」
 「やだなあー、だからわたしとりょお」
 「ちげえよ!!」
 これだからこいつは困るんだ…六年になって転校してきていきなりオレの前に現れて、これまた急におさななじみだったとか言いやがって、クラスも違うのにしつこくつきまとわれて。お陰でこの一年近く、まともな学校生活を送った気がしない。 
 「ったく…お前はいつになったら分かってくれるんだ?」
 「分かるって、何を?」
 「色々、だ。いいか、オレの名前は町森要士。『りょお』なんて名前じゃねえんだ」
 「それも前に言ったでしょ。真ん中とったら『りょお』になるじゃない」
 「お前の理論で呼ぶな! いいかげん、せめて名前で呼べ」
 「だったら、わたしも名前で呼ぶから、わたしのことも名前で呼んでくれる?」
 「…うっ」
 確かに、オレはこいつにまともに名前で呼ばれたことはない。
 が、それはオレにも言えることだ。前に一度だけ…はあるけど、それっきり、オレもこいつの名前を呼んだことはない。

 
 『崎』って。

 
 そういう地味にするどいことを何のためらいもなく言うから、どうも口では勝てずじまいだ。
 「……いいよ、もう。勝手にしろ」
 そうして結局、この言葉を言わざるを得なくなる。
 「うん。勝手にする」
 そう言って、また笑う。調子が狂うから、こいつの相手をするのは嫌なんだ。
 仕方なく、気分を変えようとオレはもう一度机の上に視線を移した。無数の色鉛筆が転がっている。よく見ると、一本一本に金箔で名前が彫られていた。
 「なあ、この色鉛筆って…」
 「え? これ? 前の小学校に入学する時に親戚のおじさんがくれたんだ。ほら、入学祝いで名前彫ってもらったんだよ、『てんりゅうがわ みさき』って」
 自慢げに、そのうちの一本をオレに差し出した。改めて考えると、『天竜川』って珍しい名前だな。

 
 名前…か。

 
 「……いつか、『まちもり みさき』になったりして、な」
 「ん、何か言った?」
 「いや、別に」
 小声で呟いていたから、どうやら聞こえていなかったようだ。少し間をおいてふと考える。

 
 オレ、何でそんなこと言ったんだ?

 
 ならねえよ。『天竜川』って珍しい名前を、どうぞ継承して…ってそうか。結婚したら女は苗字、変わるんだっけ。
 だったら……どこぞのありきたりな苗字より、オレの苗字の方が、まだ珍しいかもな。…って、違うって。
 オレがそんなしょうもないことを考えてる間に、あいつは絵の続きを描き始めた。正直、言うなればもう完成してるように見えるんだが…。と、ここでオレに一つの疑問が生まれた。
 「…お前、ちなみにそれって、描いてどうする気だ?」
 「決まってるじゃない! 明日のお楽しみ会でりょおちゃんにプレゼントするの」
 「お前とオレはクラス違うだろうが!!」
 「お楽しみ会は全クラス一斉にやるんだから大丈夫だよ」
 「大丈夫なことあるか!! 明日教室の鍵は全部閉めとくからな、二度と来るな!!」
 「えーっ、何で?」
 「お前はお前で3組の教室の中で楽しめ!」
 「そんなあー。みんな一緒の方が楽しいよー!」
 「知らん!!」
 小学校の卒業間際まで、一緒にいる必要なんかない。どうせ、中学も一緒なんだ。嫌だけど。
 でも中学生になったら、こいつも名前で呼ぶようになるかな。…無理か。
 じゃあその先、高校、大学…もし名前で呼ばれるようになった頃までこいつ…崎が隣にいたら、いたとしたら。
 
 その色鉛筆、もういらなくなるな。さすがに苗字、変わるだろうから。
 
おわり
 


毎度の如く、続きで語ります。

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一つ予想外の話を挟んだものの(笑)、無事に二周年企画第四弾として『きらら~』の小説を載せることができました。良かった・・・。今回は比較的短編ですが。

この作品、おそらくこのブログを見に来て下さってる方の中では圧倒的に知名度は無いと思うのですが・・・良いんです、うちみさんホイホイだから!(オイ)
お互い誕生日祝えて嬉しいです、うちみさん^^というか、うちみさんのブログを読むまで崎の誕生日が今日なんて自覚がありませんでした・・・(何)本当にりょおちゃんと誕生日近くて助かりました。

しかし、もしこの作品をご存知の方がいても確実にりょおちゃんが崎にベタ惚れすぎな罠。申し訳ないです・・・orz書いてる間に思いましたよ、キャラ違うだろwって(笑)でもこうしないと話が進まなかった。
あと、本編にあるような夫婦漫才の雰囲気を出せたらと思ったのですが微妙になってしまったような。

ところで、何でこの二人で題材が色鉛筆なのかというと、この記事で言ってた夢の内容がこんなのだったんです(笑)色鉛筆はやっぱ小学生が自然かなあ・・・となり、お題のマッチ具合も含めて、この二人で実践することとなりました。てか一体どんな夢見てんだ私w
いや、多分家に実際こういう入学祝いの名前入りの色鉛筆あるのが原因の一つだとは思いますけどね・・・や、そんなこと考えたことは当然一度もないよ!だから不思議なんだよ!

また結構語ってしまいましたが(しかもほぼ自分の夢関連)、気に入って頂けたら幸いです。特にうちみさんに<●><●>(←執拗)

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