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アニメ、テレビなどの感想や語り中心。現在更新停滞気味ですすみません。
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  「おやすみ」
 
 その一言を言うのが辛くなかった日なんてなかった。きっと、お互いに。

 
 楓子が一人暮らしを始めて半年が経った。少なくとも、離れ離れの学校に通っていた高校時代、もしくは楓子が親戚の家に住んでいた大学生活最初の一年間よりは二人で会える時間は増えるものだと思っていた。
 
 けど、実際は違った。
 
 二人とも授業はもちろん、サークル活動やバイトで忙しく、以前にも増して会える時間が少なくなった。いや、正確には会える時間の長さはさほど変わっていない。ただ、前よりは確実に会える距離にいるのに会えないという事実が重く、精神的な意味で余計に悔しさがつのっているだけだ。
 そんなわけで、最近彼女と話すのはもっぱら電話越しだった。これじゃあ高校の時と変わってない。でも、楓子はほぼ毎晩欠かさず俺に電話をかけてきてくれる。正直、これが毎日の唯一の楽しみだった。
 
 そして、今日もその時はやってきた。
 「電話だ!」
 俺は急ぎ足で受話器を取った。
 「もしもし?」
 「もしもし。あの、佐倉と申しますが…」
 「楓子。俺だよ俺」
 「なあんだ。良かった」
 一安心した楓子の声を聞いて、俺もホッとした。こうやって毎晩彼女の声を聞かないと、何だかソワソワしてしまう。
 「今、大丈夫?」
 「うん。楓子、今日もサークル行ってたのか?」
 「そうだよ。試合前だもん。みんな汗だくになりながら練習頑張ってるし、わたしが休んじゃ申し訳がたたないでしょう?」
 楓子は高校に続き、大学でも野球サークルのマネージャーをやっている。相当、この仕事が気に入ったらしい。
 「確かに、そうだな。そういえばさ、今度駅前に新しいショッピングセンターができるって」
 「あ、うんうん、知ってるよ! いっぱいお店が入ってるんだよね」
 「そうそう。服とかだけじゃなくて、雑貨屋とか、ゲーセンとかもあるらしいな」
 「へえー…楽しそう。行ってみたいな」
 「じゃあ、試合終わったら二人で行こう」
 「あ……」
 それまで弾んでいた楓子の声色が、急に変わった。
 「どうした?」
 「…あのね…今度の試合が終わったら、すぐ合宿なの。だから、まだしばらく無理かな…」
 「そっか……なら、合宿が終わったら…」
 「合宿が終わったら、また試合があるの。それも大きい大会で…」
 「……」
 当分の間、お互い黙り込んだ状態が続いた。
 
 どれくらいの時間が経っただろう。受話器の向こうから、小さい声が聞こえてきた。
 「…会いたい、な……」
 「えっ…」
 俺は一瞬、言葉を失った。
 「だって、そんな話するんだもん。ズルいよ…」
 「別に、俺はそんな…」
 「そんなの、会いたくなるに決まってるよ…! せっかく、こらえてたのに…わたし……」
 「楓子……」
 楓子の、珍しく強い口調。よっぽど、気持ちを抑え込んでたんだろう。なのに、何も察してやれない自分が、心底憎かった。だから……
 
 俺は、決意を固めた。
 
 「……楓子」
 「…なに?」
 「今から、会いに行っていいか?」
 「えっ!?」
 素っ頓狂な楓子の声。そんなことには構わず、俺は至って真剣な調子で話を続けた。
 「今、会いたいんだろ? だったら会えばいいじゃないか」
 「でも、もう10時過ぎだよ? わたしは一人暮らしだからともかく、そっちは…」
 「構うもんか!」
 「え……」 
 うっかり大声を上げてしまって、向こうは驚いた様子だった。俺ははっと我に返り、謝った。
 「ごめん、つい……でも、前の俺とは違うんだ」
 「前の…あなた?」
 「ああ。前にもあっただろ? 同じようなこと」
 「あの時……」
 
 受験を翌日に控えたあの日。離れ離れになって、電話じゃ耐え切れなくなって、お互いに合いたい気持ちが膨らんで…けど結局、あの時会いに行ったのは俺じゃない。楓子の方だった。

  「だから、今度は俺が会いに行く。前より近い距離にいるんだ、大丈夫だよ」
 「けど…」
 「なあに、自転車で30分も飛ばせば着くよ! それに…」
 「それに?」
 「…会いたい気持ちの大きさなら、俺だって負けてないから」
 「……!」
 この時、受話器からすすり泣くような声が聞こえてきたのは、気のせいだったのかな。聞こうと思ったけど、そんなの、楓子の次の一言で、どうでもよくなったから。
 「……じゃあ、待ってるね」
 「ああ!」
 一気にやる気が込み上げてきた気がした。だって、凄く嬉しそうな声だったんだ。
 「それじゃ、電話切るから」
 「……待って!」
 「え、なに?」
 少しの沈黙の後、楓子は聞いた。 
 
 「…信じて、いいんだよね?」
 
 彼女にはおそらく永久に言えないけど、当たり前すぎる質問に、この時、ちょっと笑いそうになってしまった。
 答えなんて大層な単語も必要ないくらい、次の俺の口から出る言葉は、決まっていた。
 
 「当たり前だろ!」

 
 その後俺は、どこへ行くの、という母さんの言葉に一切わき目も振らず急いで自転車に飛び乗り、ただただ楓子の家への道のりを漕ぎ続けた。その間のことは、何も覚えていない。ひたすらじっと前だけを見て、ペダルを漕いでいた。信号とかも守っていたかどうか危ういけど、今となってはよく何の事故にも遭わずにすんだなあと思う。
 電話で言った通り、家を出て丁度30分が過ぎた頃…見覚えのある人影が電柱の灯りに照らされていた。彼女は今にも泣きそうな顔で、こっちへ駆けてきた。
 「楓子!」
 俺は自転車をその場に乗り捨て、楓子の元へ走った。どちらからともなく抱き合った時には既に、楓子の目には涙が浮かんでいた。
 「本当に…来てくれたんだ…」
 「なんだよ、まだ信じてなかったのか?」
 俺もナメられたもんだなあ、と苦笑する。
 「ううん、そうじゃないの。 ただ…無事に来てくれて…良かったって…」
 「楓子…」
 抱きしめる手の力を強めて、俺は言った。
 「俺、きっと何でもできるよ、楓子のためなら」
 「うん……」
 そう、この日は初めて、「おやすみ」という、あの忌々しい言葉を言わなくて済んだんだ。

 
 こうして無事に久しぶりの再会を果たした俺達は、何故か楓子の部屋に入るでもなく、そのままずっと外で過ごした。具体的に何を話したとかは覚えてないけど、楽しかったから、それでいい。それだけで良かったんだ。
 
 だけど……
 
 話に夢中になりすぎて、俺が家に帰った時には夜が明けていた。
 当然、その後延々親の説教をくらうことになったのは言うまでもない。しかも、こんな日に限って日曜ときたもんだ。
 あーあ…せっかくの休みなのに、今日はほとんど親のお小言を聞いて過ごすことになりそうだ。
 
 でも……
 
 夜になったら、また楓子の声が聞ける。そう思うと、説教もあんまり苦じゃなかった。
 さて、今日も一日が終わる。たまには、オレから電話してみようかな。

おわり

参考→ときメモ2本編及びときめきメモリアル2 Substories Memories Ringing Onプレイ動画(笑)

アップして下さった方に感謝。


続きからで恒例の語りです。

拍手[0回]


はい、このタイミングでまさかのときメモ2!(笑)
以前目次を見て下さった方の中には(ときメモなんてあったか?)と疑問に感じた方もいらっしゃるかもしれません。だって、私ですら予定外でしたから!← 上手くお題にハマったんだ、これが(これがじゃねえよ)
というか、予告していた『きらら~』を放置してしまってすみません、うちみさん・・・orz(※私信)お互い来月には頑張りましょう!

とあるきっかけでときメモ2にハマって二週間ほど・・・そうです、まだ新人です。
そんな初心者が書いた小説ということで、特にかつてからのファンの方には申し訳ない出来となっているかと思われますが、楽しんで頂けてたらこれ幸いです。楓子が好きなんです!(唐突な主張)

ところで、今回の地道な課題としては、いかにして主人公の名前を出さないかということでした(笑)なので必然的に主人公目線です。
しかし一番苦労したのは、ゲームでは主人公の名前を呼びまくるヒロイン(楓子)にいかにして主人公の名前を呼ばせないかの方でした。結果的にはさほど違和感無く収まったかなと。でも「あなた」は確かゲームでも言ってた気がするけど、「そっち」は我ながらwごめん主人公。

ときメモはそのゲームシステム故、主人公の名前は決まっていないし、加えて同じシステムに近いGAと何より違うのは、主人公のビジュアル(顔)が明らかになってない!!これはGAで恋愛シミュレーションに慣れてた私としてはなかなか慣れないものがありました。でも、性格の良さやとある一枚絵(無論主人公の顔は前髪だけで表情は隠れている)で、今となっては惚れました。男性向けのゲームで主人公の男キャラに惚れるというね!私には乙女ゲーは向かないようです。

以上の理由から、私がときメモを二次創作で発表する場合、どうしても小説になってしまうのです。主人公の顔補完するなんてそんな高等テクニック持ち合わせてないですしね!あと、単にマンガはもっと難しい。
一応、ドラマCDや小説では主人公もちゃんと決まった名前はあるんですが、それを借りるとその設定を無視できない奴なので・・・^^;(GAも私が二次創作で描いてるのはあくまでもゲーム設定であって、マンガとは別ということにしてあります)

ていうかドラマCD設定にしてしまうと楓子は・・・っ!ポカリめ!!(彼は悪くない)

何だかんだ語って長くなってしまいましたが、ともあれ元がそういうことなので恋愛要素が高めなのは勘弁して下さいということです(←違う)
いや、私にしても結構思い切りましたよ、今回。『抱き合う』なんて普段使いませんもんwまあ元がああだから良いよね的な。開放感。(?)
そしてぐち子さん、ノバラさん、やっぱり私はこういうのしか書けない(描けない)みたいです!(笑)こんな私をこれからも宜しく!

うお、前とは比べ物にならないくらい追記長えwごめんなさい;
あ、最後に・・・タイトルの『挨拶』は「おやすみ」の意です。一応。お題に合わせるため頑張りました。ん、
さっきお題にハマったって言ってなかったかお前?
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